朝日が刃を求める前に
いつからだ、空がこんなにも黒いと感じるようになったのは。いつからだ、空がこんなにも遠いと感じるようになったのは。いつからだ、地上がこんなにも暁に染まったのは。
「そんなの覚えちゃいねぇよ」
爛々と輝く双眸を眇めて、高杉が皮肉げに嗤う。それはどことなく修羅を生きる殺人鬼を想像させて、いっそ気味が悪いほどだった。仮にも共に戦う仲間に向かってそれはあんまりだとは思ったけれど、この男に対して自分は些か厳しいところがあるようだ。自覚が無いわけではないけれど。
桂は高杉の眸をじっと見つめていたが、不意に視線を落とした。そこには赤く光る塊が一つ。握り締められた刀の刃は、暁を映して鮮やかに輝いている。
急に吐き気を覚えて、桂はその場に膝をつき、蹲った。
生々しい温度を残す肉塊は、先ほどまで、このおびただしい量の赤が、塊の中を廻っていたことを示している。指を浸すと、その液体はまだ生温かかった。
鳴咽が漏れる。赤いだけではない、己の手の汚さに涙が出そうになった。けれど涙は出ない、流す資格は、無い。
「お前は、」
甘い、そう言われた気がした。実際のところ、その続きが高杉から漏れることはなく、与えられたのは差し出された冷たい指先だけだった。
(07/04/28)