自分は醜い生きものなので。

私はまだ生きてる?世界の中に、いる?

* * *

清いと思った。どこまでも美しくて儚い生き物だと。
それゆえに強いのだと。自分自身を信じて迷わない意志の強さ。周囲を安心させるように 微笑む瞳と、敵を射抜くほどの鋭い瞳の温度差。この2つに自分は惹かれたのかもしれない。自分には決して無いものだから。
向けられる瞳は誰にでも平等で、アレンにも神田にも彼女の瞳は細められた。笑うと左側 だけえくぼができる、それが彼女の癖だった。その癖を、以前一度だけ指摘したことがあった。ブックマンの習性として、人相や癖を人並以上に記憶してしまうことを疑問に感じていた頃。自分はおかしいんじゃないかと自問自答を繰り返していた頃。人をからかっては自分を無理矢理納得させていた。“ほら、誰も拒絶なんてしない。” 彼女のこともちょっとからかってみただけのはずだった。

『リナリーは笑うと左だけえくぼが出るんだね』
『え?本当?』
『俺の本職さ。人の顔とか癖とかがすぐ目に付く。』
『それだけ人を見てるってことでしょう?それってとっても素敵なことだわ』


そう言ってふわりと微笑った彼女の顔が今も忘れられない。ひどく懐かしい日の思い出。
目覚めた彼女の瞳を覗き込み、細い指を握り締める。二度とこの手を離さないことを誓った。いつか教団を出る日まで、自分はコムイとは違った方向から彼女のことを守り抜こう。(本当はブックマンという自分の使命を投げ出してでも彼女を守りたいけれど、)(しかし彼女は彼女を守るために自分という存在を否定することを望まない。)

* * *

なぁリナリー、君の瞳は何が見えるんだ?俺は君の世界に映っているのか?

だったら今すぐ、消し去って欲しい。

(06/12/04)