僕が信じない僕の想い

言ってしまったら終わるような気がした。負けを認めるのと同じ、そこでこの硝子のように脆く薄っぺらい関係が終わるような気がしたのだ。
心の中では何度も告げた言葉だった。平仮名二文字、たった六画というシンプルな単語がどれだけの意味を持っているのか。どれだけの効果を発揮するのか。そんなの、自分にだってわからない。それでもこの確信に似た予感を疑う余地はなかった。
「…何の用」
「いや別に、ちょっと顔見に来ただけ」
だから取り繕ってしまう。本当はそんなことを言いに来たんじゃない、とは思っても言えないのだから仕方ないけれど。心とは裏腹な口唇は嘘しか言わない。自分はそれを彼に告げる術を持たないのだ、と。
思えば彼と初めて会った時も、彼は今みたいにとても不機嫌そうに顔を歪めていた。笑顔しか向けられたことのない自分にはそれが不思議に感じられたのだ。周囲の人間と同じ扱いの目線にひどく苛立ちを感じた記憶もある。初めて自分を特別に扱わなかった人、と言えば大袈裟だが、自分に対して好意以外の感情を向けてくる人間を初めて見た山本にとって、雲雀はとても興味深い人種のように思えた。
(絶対に特別になってやる、)
といった感情を、今日まで突き通してきたのだ。これは別に恋でも愛でも、まして憧れや尊敬でもない。それどころか意地に近いと思う。自分の余りの子供っぽさに山本は笑うしかなかった。

(06/09/24)